大会主旨

  長崎という九州の西端の辺境の地が日本史に登場するのはいつ頃からだろう。

それは旧石器時代から縄文時代の遠い過去にも遡り、長崎県北から県南にかけて各地に数々のドルメン、貝塚などの遺跡群が発掘されている。弥生古墳時代には「魏志倭人伝」に伝えられる「一支国」(現在の壱岐)には数多くの古墳群が残されており強大な権力者が存在したことが証明されている。飛鳥時代には古代朝鮮半島の勢力争いでの「白村江の戦い」で敗北を喫した日本軍(倭)が唐からの侵攻から本土防衛のために防人や烽(とびふ)を対馬や壱岐に置き備えをしている。外交が安定した奈良平安時代には「遣唐使」の出発地や寄港地として壱岐、対馬、五島列島などが歴史に名が挙がり、五島三井楽町には空海の「辞本涯の碑」が建つ。

 

それでは古代日本では今の長崎市地域はどういう状況であったのだろう。古代日本から秀吉の中世までは殆ど日本史に名前すら出ることのない日本中どこにでもある、その名を深津江または瓊ノ浦(たまのうら)と呼ばれていた寒村に過ぎなかった。

 劇的にこの地が変わることになるのは秀吉の時代以降からで、この肥前長崎は日本史にその名を表舞台に刻むことになる。その後の歴史は皆さんのご存知の通り。

 さて本題。

 

 皆様、ようこそお出でてくださいました。

ここにお出でた方はランナーの方かランニングになんらかの形で携われる方と思いますが、しばし遊んでいただければ幸いです。

 

2006年度(平成18年度)まずこのコースを設定いたしましたのは、長崎県中南部の、長崎港、野母崎半島、橘湾岸、島原半島、を走っていただきたいからです。

 島原半島は古くは国立公園日本第号の雲仙温泉地域、平成21年に国内第号となる世界ジオパークに認定されその自然景観のダイナミックさと美しさが見直されているところであり、また平成27年ユネスコから長崎市内の遺構群(現役のものもある)が明治産業革命遺産の指定を受け、翌平成28年には長崎と天草潜伏キリシタン関連遺産として指定を受けた大浦天主堂、天草の乱の舞台原城跡などがコース上に取り入れられており自然の風景を巡る楽しみと歴史を巡る道として申し分のないコースであると言えるでしょう。

 また海洋県としての長崎の中心街から、登山道路もあり、そしてこのコースの殆どを辿る海岸線の道々を行く設定になっており、長崎を囲む東シナ海、橘湾、大村湾、有明海はそれぞれ違った顔で懐かしい中にも美しく鄙びたまた荒々しい風景の中に各地の漁港をくまなく巡るコースでもあります。普段都会暮らしで見落としがちな地方の小さな漁港を比較しながら走られるのも、その海の景色の違いを存分に楽しんでいただきたいのです。

そして終盤にはあの雲仙普賢岳の大火砕流跡を間近にというよりも、その痕跡の上を通過するような眉山道路をコースの中に取り入れております。

ランナーの皆様にはアップダウン激しい難所ではありますが、その大自然の景観も是非ご覧になっていただきその足でしっかりと走り抜いていただきたいと思います。

 さて長崎県にもようやく行政の主催するフルマラソンが2020年(令和2年)11月に誕生することになりました。この大会の設立の動機の一つにに長崎県には都市型のフルがないという情けなさがあって、この橘湾岸マラニックを立ち上げたわけでありますがようやくにしてこの長崎にフルマラソンが開催されることは感慨深いものが有ります。今後はフル以上のウルトラへの登竜門となれるよう橘湾岸マラニックもその様な位置付けにしていきたいと思っています。

 この「橘湾岸マラニック273Km48~54時間」の大会主旨は超ウルトラの魅力を一人でも多くのランナーに味わっていただきたいと思うからでです。超ウルトラを完走すれば一人その充足感に浸れる。誰にも理解できない、いや理解すらされない自分に対する自分だけの勲章になるでしょう。活計(たつき)以外の人生最大の思い出の一つになるかも知れません。

すでに各地の100キロクラスのウルトラレースに完走して今一、次の目標を絞り切れていないランナーにこそ、また速さを競わないゆっくり長く走りたいランナーにこそこの大会に出て挑戦していただきたいと思うのです。しかし、二日間以上に渡る大会に身体を酷使した時間とその休息回復の為の一日とさらに大会会場への移動の合計の時間を考えたならばなんと贅沢な時間の流れでしょうか?

しかし、それはかけがえのない永久の思い出として心に残るはずです。

 

 この大会も通算29回目を数えもうすぐ15周年を迎えます。10年続き社会に根付けばその存在意義はある、と言われますがまだまだこの大会はよくしていきたいと思っています。長崎を走ってみてよかった、と言われる様な大会にしていきたいとも思っています。そして参加者の皆様のランライフの一コマとしてして永久に思い出になる様なシーンを演出できればと切に願っています。

     

           橘湾岸マラニック4原則

             1.  ホスピタリティあふれる大会であること。

             2. 誰でも完走できる様な工夫があること。

             3. 超ウルトラへの登竜門であること。

             4. 参加料に見合う大会内容であること。

                               

 

 

                                     竃屋 銀蔵     令和元年(2019) 7月改訂